今日まで続くコロナウイルスの影響により自宅内での活動を余儀なくされる中で、ゲームにどっぷり嵌ってしまった人も少なくないのではないだろうか。かく言う筆者もその一人であり、巷で大きな人気を得ている一人称FPSゲーム『Apex Legends』に2020年の夏からどっぷりと嵌ってしまった。会社の同僚とダイヤランクを目指し終業後にゲーム内で夜な夜な集合したのは今も良き思い出である。このような楽しい側面がある一方で、多くの方に共感してもらえると思うが『Apex Legends』は大きなストレスを伴うゲームである。リコイルが一向に上手くならない。ショットガンを外しまくる。スピットファイア腰撃ちマンとの至近距離ファイトに負けるなど、頭に血が上りディスプレイを殴りたくなる衝動に駆られ、いつまでたってもYouTubeで見るプロの様にプレイできない自分に無力感を感じる瞬間は枚挙にいとまがない。
そんな中、2021年5月に発売されたVR機器である『HP Reverb G2 Omnicept Edition』が弊社に届いた。この機器はヘッドマウントディスプレイ内にいくつものセンサーを内蔵しており、心拍数や目の動き、心の状態をモニタリングできるらしい。そこで今回はこのVR機器を使って『Apex Legends』が如何にあなたの心に負担をかけるかということを少しでも明らかにして、全てのプレイヤーにより健康的なApexライフを謳歌してもらう手助けをしていきたい。
1.今回使用するVR機器
『HP Reverb G2 Omnicept Edition』はこれまでに既に発売されていた『HP Reverb G2』に、目や心拍といった様々な生体情報を計測するセンサーを搭載したものである。またそれらの計測データを組み合わせることによってユーザーのストレス状態などもある程度検知することができる。これによって、従来のVR機器のようなゲーム用途以外にも、ヘルスケア関連分野で応用が期待されている。
視線計測センサー
その分野では1,2を争うほどの知名度を誇るToBiii®の視線計測センサーを搭載している。視線、瞳孔の大きさ、まばたきを検知することができる。
心拍センサー
ユーザーの心拍数を計測することができる。
フェイスカメラ
フェイスカメラはヘッドマウントディスプレイの口元に近い場所に位置しており、以下のようにユーザーの口元を含んだ映像を撮影している。これらの画像を使ってユーザーの表情を判別する。なお、このカメラからは以下のようなユーザーの口元付近の映像が取得できる。(検証当時は表情分析機能は開発者に公開されていなかったため今回は未使用。)
2. VR上で『Apex Legends』をプレイする準備
今回使用する『HP Reverb G2 Omnicept Edition』についてざっと説明してきたが、これを用いて『Apex Legends』をプレイしていく。そのためにはVR上にゲーム画面を表示する必要があるが、今回はWindows MRポータルを使用する。これを用いることによってVR空間上にデスクトップ画面を表示できるので、その画面を見ながらVR内で通常のゲームをプレイすることができる。
また今回はゲームプレイ中の心拍の変化や目線の動きも同時に測定していくため、そのためのアプリも同時に使用する。幸い『HP Reverb G2 Omnicept Edition』の開発者用ページにて生体情報モニタリングアプリ『Omnicept Overlay』が配布されていたのでそれを使用する。なお、この他にも様々なサンプルアプリが用意されており、こちらのリンクから必要なものをダウンロードすることができる。
このアプリを使うことで、視線の動きや心拍数といったセンサーから直接得ることができるデータ以外に、それらのデータを組み合わせて算出するHRV (心拍変動)の値や認知負荷の度合いといったデータも取得することができる。
3.『Apex Legends』をプレイしてみた
生体情報のモニタリング環境とVR上でのゲームプレイ環境を整えたところで、実際に「Apex Legends」を1試合プレイしてみた。そのプレイ動画を順に追いながら取得した筆者のゲームプレイ中の生体情報を解説していきたい。
試合開始時
まずHRV値に注目してみる。HRVとは心拍数の変動を表し、この数値が高ければ副交感神経が活性化しており、身体がリラックスしている状態を示す。一方でこの数値が低ければ、交感神経で活性化しており、身体がストレスを感じている状態を示している。
参考 : 「心拍変動の紹介」, OURA
そして実際のプレイ動画を見てみるとゲーム開始直後、レジェンド選択画面でそれまで100以上あったHRV値は一気に70代後半まで下がり、その後の初期物資漁り時には更に下がって50半ばを記録している。HRV値が低ければ低いほど身体がストレスを感じているとすると、試合開始直後にはかなり大きなストレスを感じていることが分かる。
次に心拍数を見てみる。心拍数に関してはご存知のように、一定時間内での心臓の鼓動の回数であり(今回の検証では一分間での心拍数)、運動時や興奮時にこの値が大きくなる傾向にあり、一方でリラックス状態には相対的にこの値は小さくなる。筆者の平常時での心拍数は70後半であるため、ゲーム開始時の心拍数90前後というのは多少興奮状態にあるようだ。ただ、一方でHRV値と異なりレジェンド選択時に90半ばある心拍数は、ゲームが進行するにつれ徐々に下がり、初期物資漁り時には80後半にまで微減している。
またこの初期物資漁り時には視線が忙しなく動きまわり、敵や物資を探している様子が示されている。
戦闘開始時
試合開始約1分半を過ぎたあたり(プレイ動画3分43秒あたり)でこの試合で初めて接敵する。ここからじわじわと心拍数はあがっていき90に到達し、そこから約1分後に敵からの攻撃を被弾した直後には心拍数は一気に110を超える。やはり敵との戦闘状態に入ると心拍数はわかりやすく上がっていることが見受けられる。
ある意味予想どおりの変化を見せた心拍数に対して、HRVは意外にも真逆の変化を見せた。予想では、接敵時には大きなストレスがかかりHRVの値は下がるものと思っていたが、意外にも値は10ほど微増しており、接敵前後でのさらなるストレスの増加を示さなかった。しかしそれでもHRVは平常時の100前後からみると相対的に低い値を示し続けており、常にストレスを感じている状態は変わっていない。
心拍関連のデータ以外にもこのシーンでは瞳孔のデータが興味深い結果を示していた。接敵後に相手を追いかけて明るい屋外から暗い室内に入るのだが、ここでは瞳孔が大きくなっていることが示されている。
戦闘中
そのまま敵を追い続けていき打ち合い状態での戦闘になった際には、それまで70前後を推移していたHRVの値が一気にこの試合最低の40後半まで下がった。そこから戦闘終盤までその値を維持しており、常に大きなストレスを感じていることがわかる。心拍数は戦闘開始時から大きな変動はないもののコンスタントに100を超えており興奮状態を維持している。そして、あっけなくやられてしまった後は安心したのか、心拍数は下がり、HRV値も上昇を始めた。
4.ストレスを減らしハッピーなApexライフを過ごすには
ここまで実際のプレイ中の筆者の生体情報から心拍関連のデータを主に参照しながらApex中にストレスがかかるポイントに触れてきたが、これをヒントになるべくストレスレスなApexライフを過ごすためのTipsをいくつか紹介したい。
ハイド
ストレスレスなApexライフを過ごすためには戦闘は最も避けるべき要素の一つである。先にも述べたように戦闘中は心拍数もあがり、HRV値も下がるなど身体に大きな負担がかかることは間違いない。よって戦闘をなるべく避けるハイドを行うのがApexをプレイする上でストレスを低下させる最も効果的な方法である。
スナイパー
ハイドはApexのストレスを軽減させる上で最も効果的な方法だが、一方で戦闘をしたいという欲求を抑えきれないプレイヤーもいるだろう。そんなプレイヤーにはスナイパー武器を持つことをおすすめしたい。プレイ動画でも見られたように、打ち合いになり相手にキルされうる状態にならなければHRV値が大きく下がることを避けることができる。よって距離を取り、スナイパーで一方的に撃ち続けれる状況を作れば、あまり大きなストレスを身体にかけることなく、戦闘を行うことができるだろう。
マインドフルネス (瞑想)
最近Googleも社内で取り入れていると言われるマインドフルネスはApexプレイヤーにとっても有効である。こちらの記事によると、マインドフルネス瞑想はHRVを上げるといった効果もあるようだ。レジェンド選択中、マッチ待機中、ハイド中など、小さな時間の隙間を見つけてマインドフルネス瞑想を実践してみるのも、ストレスレスでハッピーなApexライフを歩む手助けとなるだろう。
参考 : 「マインドフルネストレーニング」, EM Alliance
筆:エンジニア 中川