
はじめに
CGデザイナーの川村です
2025年の8月に東京工科大学の降籏(ふりはた)収吾さん(@roopspn_2020
)が弊社東京オフィスにインターンシップに参加してくださいました。
インターンシップについて
弊社のインターンシップは、期間や内容をあらかじめ固定する形式ではなく、本人が「何を学びたいか」「どのくらいの期間関わりたいか」を起点に、課題設定や取り組み方を一緒に考えていくスタイルを取っています。必要に応じて機材の貸し出しを行ったり、制作や設計について相談しながら進めるなど、比較的自由度の高い形で実施しています。
降籏さんについて
降籏さんは、VJ表現を含むリアルタイム性の高い映像表現に強い関心を持っており、普段からオーディオビジュアルやジェネラティブな表現を用いた制作を行っています。
特徴的なのは、自身の表現を深めることだけでなく、こうした映像表現に触れたことのない人たちを制作者側へと引き込むことを意識した活動にも取り組んでいる点です。
その一例として、誰でも直感的にVJができることを目指したシステムを個人的に制作しており、操作性や導入のしやすさを重視した設計を行ってきました。
リアルタイムなVJ表現は、まだ発展途上で小さなコミュニティに属する文化でもあり、観客と演者の立場が重なり合う場面が多い領域です。そうした文脈を踏まえた降籏さんの姿勢には、共感する部分が多くありました。
近年、VJシステムを個人で開発・公開する動きは少しずつ広がりを見せており、例えば Chelsea Liggattさんによる「okVJ」や、甲斐ひろあきさんの「TOXBOX」など、実際にツールとしてリリースされる事例も増えてきています。降籏さんの取り組みは、こうした流れとも自然に接続するものであり、現在のVJシーンの文脈に対しても興味深いものだと感じました。
今回の課題とアプローチについて
今回のインターンで制作したスタディは、TouchDesignerのDisplaceTOP に代表される「デジタルなディストーション表現を物理的な構造として再解釈すること」をテーマとしています。
DisplaceTOPは、参照マップを用いて各ピクセルのUV座標をオフセットし、像の位置を局所的にずらす非常にシンプルな処理です。
降籏さんが制作したハーフミラーを用いた装置では、ミラー面を物理的に歪ませることで反射角度が変化し、その結果として像が局所的にずれて知覚されます。
屈折によって生じる光の伸び縮みや色収差のような複雑な変化ではなく、比較的単純な「位置のズレ」が生じる点で、この現象はDisplace的な振る舞いとよく似ています。
Displaceというデジタルエフェクトは、自然現象の再現を目的としたものではありません。
それにもかかわらず、本作ではそれを反射という物理現象に置き換え、構造として再解釈している点に、このスタディならではの面白さがあると感じました。
自己紹介
初めまして、東京工科大学3年生の降旗収吾です。大学ではインスタレーションやメディアアートを勉強しています。また、趣味でVJをしており、オーディオビジュアルやジェネラティブな要素を活用したパフォーマンスをしています。
この度、2025年8月9月の約1か月間、1→10さまにてインターンシップに参加させていただきました。
動機
メディアアーティストの落合陽一氏が大阪万博で展示している「null²」を見た際、展示物に反射した空や建物などの風景に、デジタルエフェクトの一つである「ディストーション」がかかっているように見えました。
null²ウェブサイト
ディストーションとは、映像に「歪み」を発生させるエフェクトです。

歪みによって、サイケデリックさや非日常さが演出できるようになります。
このディストーションというエフェクトはデジタルエフェクトの一つとして存在していますが、デジタルなものをアナログなもので再現し、自在に制御できないかと思い、今回の制作を決意しました。
加えて今回の作品は「実際にそこにある」ことでできる表現を実現したく、デジタルな表現をアナログな手法で再現することでメディアアート性を作品に落とし込むことを目標にしました。
いつも感覚でやっているような細かいことが通用せず、進行が遅れるなど困難はありましたが、自分なりに新たな分野への挑戦にもなると感じました。
制作したもの
「ディストーション」を、ハーフミラーを使って再現し、なおかつ一つのレイヤーのみにディストーションがかかるといった内容です。
ソフト内でディストーションをかけたものと比較すると、再現できているといえるのではないでしょうか。

▼装置全体の写真

▼機材構成

ハーフミラーとモニターの角度を、反射した映像と透過した映像が同時に見えるように調整しています。
ハーフミラーの端にサーボモーターを配置し、ツメでハーフミラーをひっかくことにより、反射する映像を歪めています。
仕組み
今回の制作では、ArduinoとTouchDesignerを使用しました。
しかし、歪みがきちんと再現できるか、や、歪みの綺麗さなどの調整はハード側ですることだったので、ソフト側で難しいことはしていません。
ハーフミラーの反射調整
まず、制作をするにあたりハーフミラーをゆがませることで、反射した像も歪んだように見えるかのテストをしたところ、問題なく歪んで見えました。
しかし、歪ませる際にハーフミラーを押すことにより張りが緩和し元に戻らないため、一度歪ませるときれいな映像を映すことができませんでした。
そこで、ハーフミラーを8方向から輪ゴムで引っ張ることで、きれいな歪みは発生しつつもとのピンと張った形にハーフミラーを戻すことを可能にしています。

歪ませ方
輪ゴムで引っ張っている8ポイントの間を縫うような形でサーボモーターを配置し、サーボモーターに取り付けたツメでハーフミラーをつつくことによって歪みを発生させています。
本来はハーフミラーの中心を押したり引っ張ったりする方が歪みはきれいで、かつダイナミックな絵になります。しかしハーフミラーの中心にギミックを用意するとなると難しく、見えないところにギミックを配置するとなると端に限定されます。端でもなるべくきれいに歪む場所を選んだ結果、このような配置になりました。
モニターの明るさ調整
ハーフミラーの手前と奥の明るさを均一にすることによってハーフミラーの「半分透過、半分反射」という特性を発揮しています。そのために、枠は網がある箱にしました。
サーボモーターの制御
Arduinoで一括制御しています。4つのサーボモーターの動かし方で歪み方のバリエーションを作れます。
1:すべて一緒に動かす
2:すべてバラバラに動かす
3:縦を一緒に動かす
4:横を一緒に動かす
また、流す映像と歪み方のバリエーションはTouchDesignerにMIDIコンを接続し、その信号をシリアル通信で送ることで制御しています。
技術スケッチについて
技術スケッチとは、気になった技術や映像を自分なりに調べ、再現、発展させてLTのように発表するといった内容です。
社内でほぼ毎週行われているらしく、自分は2回参加させていただきました。
1:ピクセルソート
調べてみたところ、同じx軸上にあるピクセルを輝度順に並び変えるの技術のことらしいです。データをRGBからHSVに変えてソーティングし、またRGBに直したところノイジーになりこちらの方がルックはいいかもとお話の中で意見が出ました。
左がカラースペースを変換したピクセルソートで、右がプレーンなピクセルソートです。

2:カメラエフェクト
カメラで読み込んだ映像を別の映像に置き換えて出力するといったスケッチをしました。
自分は中でもマインスイーパーのようになるエフェクトが好きでした。

技術スケッチの感想としましては、1→10さまのような規模が大きい会社だからこそできるもののように感じました。
スケッチに参加する人数は毎週2~3人程度ですが、部署内の定例会で発表するため、スケッチに参加していない人や別の分野でお仕事をしている方からもFBをもらえたりします。
その分野を専門にしていないからこそいただけるFBの中には自分だと思いもつかないようなアイデアがまぎれたりしていたので、非常に刺激になるイベントだと感じました。
反省点
今回の制作では、かなりの反省点がありました。
まずは制作時間の確保で、大学側のトラブルにより当初予定していたインターンの期間が縮んでしまい、かなり忙しかったことです。
基本的にインターン期間中は週一出社なのですが、出社時のみの制作だと短い期間で一定の成果を出すことが難しく、かなり自分の時間を使うこととなりました。夏のインターンということで、ある程度時間を確保する覚悟はしていましたが、それでも期間中に行き詰まり、立ち止まっている時間は何かに活用できたかと感じています。
完成した作品に関しても改善の余地は多く残されていると感じます。まずはコンテンツとしての面白みが足りないということです。
今回制作していく中で、歪んだ映像を見たところ、水面に反射した風景のように見えたことから、水中と反射する空やビルの映像を映しています。しかし、それを見たときに「水面のように歪んでいる」といった感想以上のものがあまり出てこないような気がしました。
解決案は無限にあると思います。規格外に大型化してみても面白いと思いますし、流す映像がそれをコンテンツとして楽しめるものに差し替えるなども一つです。
体験型の作品としては形にできたのが幸いでしたが、これを多くの人に向けて発信し、なおかつお金を頂くとなると、この業界の難度や制作のハードルを実感する結果になったと思います。
インターンを通しての感想
まず率直に、とても楽しかったです。
普段の生活では全く手に入らない制作環境や他人に見てもらうという経験が、インターンに参加したことで手に入るというのは、自分にとって莫大な利益をこの短期間で詰め込まれた感覚でした。
普段のデジタルな制作を現実世界に拡張してみた結果、自分の表現の幅も大きく広げることができ、非常に充実した1か月間だったと思います。
また、業界や1→10さまの会社の雰囲気を知れたことも大きいです。自分は東京オフィスにて参加させていただきましたが、クリエイティブな業界で働く人たちの思考回路やコミュニケーションを覗くことができました。
加えて他業界の企業様との会議を見学させていただき、業界、企業ごとに何を大切にして制作、展示されているかをお聞きすることができました。
自分がこの業界に飛び込むことを考えたときに何をしたらいいかなど、非常に勉強になりました。
改めまして、メンターの川村さん、ハードウェアに関していくつものアドバイスをくださった木田さん、受け入れてくださった1→10のみなさま、本当にありがとうございました!!