
立命館大学映像学部一回生、今井希築です。
この度、2025年3月の間、1→10さまにてインターンシップに参加させていただきました。今回はそのインターンシップについてレポートさせていただきます。
目次
1.自己紹介
2.制作物紹介
3.システム
4.制作プロセス
5.IEスケッチ
6.反省点
7.感想
1.自己紹介
改めまして、立命館大学映像学部一回生の今井希築です。大学ではオーディオビジュアルパフォーマンスやインスタレーションの制作を行うほか、教育コンテンツの制作を行うチームを運営しています。



こちらのwebサイトに詳しく記載しておりますので、よろしければ御覧ください。
2.制作物紹介
今回のインターンシップでは、風船を用いたインスタレーションの制作を行いました。
ざっくりと内容を説明すると、TouchDesignerで制作したUIから鑑賞者が風船の高さを指定、その情報に従いモーターに取り付けられた風船が上下するといった内容になっています。
映像
操作UI


また、映像にはありませんが上昇した風船は、指定した時間その場で静止した後、初期位置まで下降していきます。
日頃は最終的に画面に映し出される作品を制作することが多く、今回初めてキネティック・アートのようなものを制作しました。
映像作品と全く異なるアイデアの出し方が必要になると考えていましたが、風船を3次元のディスプレイと捉えることで幅広いアイディアを出すことが可能になると感じました。
仕組み

このような流れで動作しています。
UIが動作しているTouchDesignerから、各モーターの回転数をシリアル通信で送信。その後、シリアルを受け取ったArduino UNO R4からPCA9685にI2Cでモーターを操作という形になっています。
また、UI上の位置と実際の風船の位置が同期するように風船が指定した位置まで上昇し、元の位置まで下降が完了すると、先ほどとは反対にArduinoからTouchDesignerに信号が送信されUI上の配置がリセットされます。(下記画像参照)

ここからはTouchDesigner、Arduinoの実装について詳しく触れていきます
TouchDesigner


上記①でUIからの値を整理し、②でインスタンシングの座標基になるGrid SOPとボタンから取得してきた値を組み合わせています。
その後、③でUIから得た値を球体の座標に適用すると同時に、リセットボタンの処理や後述するシリアルとの処理を行っています。
④ではUI上のグリッドを作成しています。もう少し効率の良いやり方があったのかなと反省しています。

⑤ではArduinoから受け取ったシリアルを表示し、1と0を返すCHOPを制作しています。この値により、風船の移動が終わり全て初期位置に戻ると③で述べたようにUIの座標もリセットされます。
Arduino
Arduinoに持たせた機能は主に以下の2点です
- TouchDesignerから送られてきた情報を基にモーターを回す
- 今の状態をTouchDesignerに送信する。
ソースコードを一部抜粋して紹介します。

シリアルを受信し、制御に使える形にしていきます。TouchDesignerから送られてくるデータは複数チャンネル×1サンプルになっています。

モーターを実際に動かす部分です。今回使用したモーターはパルス幅が1.5msを中心に、それより大きくすると左に、小さいと右に回転する仕様になっているのでPWM_FWD等の変数には対応する値が入っています。
この情報を基に、TouchDesignerに対して上昇が終わったタイミングと、下降が終わり初期位置に戻ったタイミングで信号を送るようにしています。
制作プロセス
1:内容の決定
今回の制作物を決めるにあたってのスタート地点は、「風船の上げ下げを制御できると面白そうだな」という私のアイデアだけから出発しました。
当初の予定ではライブ等の演出装置として使用することを想定していたので、風船とセットでLEDテープの制御も行う予定でしたがその要素は削り、風船の数を増やす方針に変更しました。
風船を動作させるトリガーも、単純なボタン入力ではなく、mediapipeをTouchDesigner上で走らせ、手を上に上げると風船が上昇し、一定時間経つと下降するような方針で制作をはじめていきました。
2:テスト制作
注文してから全ての部材が到着するまで少し日にちが空いてから、仮での制作に取り掛かりました。
PCA9685を使うのも、複数のサーボモータを扱うのも初めてだったので上手くいくか不安でしたが、概ね想定通りにいったと思います。
3:風船を付けてみる
実際に風船を付けてみました。前回からの変更点として、モーターの先端に糸を巻き取るパーツをつけ、土台となる板に固定しました。モーターと板の固定は、メンターの服部さんが3Dプリンターで印刷してくださったパーツを使用しました(ありがとうございます)。
このテスト機をCT部やオフィスにいた方に見てもらい、以下の点が問題点として挙げられました。
- 巻取り機構から糸が外れてしまうタイミングがある
- 風船が動くのは面白いが、作品としての目的が不明瞭
この時点で、インターンの半分が終わっていたため、後半はこの2点を主に修正していくことになりました。
フィードバックを通して体の動きのような明確なトリガーを用意したような完成された展示ではなく、あくまで風船を使った展示形式の可能性を示すようなコンテンツに切り替えようと決めました。
4:UIを組む
4でのフィードバックから、風船の可能性を示せるコンテンツを作ると決めたため、体験者が風船の位置を自由に決定できる内容のほうが良いのかと考え、TouchDesignerで操作用のUIを組むことにしました。

また、ただ操作するだけでは学習にならないと考え実際の風船の動きとUI上の位置がきちんと連動するよう、双方向のシリアル通信を行いました。
TouchDesignerは使ったことがありましたが、今回初めてスクリプトをがっつり触りました。
5:巻取り機構の修正
フィードバックの際に発生した糸が巻取り機構からはみ出してしまう問題については、モーターの先端に木のブロックをつけることで修正しました。

6:発表準備
ある程度の準備が整ったので、発表準備に取り掛かりました。前述したように、具体的なテーマや目的のある作品としてではなく、風船を使った作品アイデアとして発表することにしました。
テストでは全てに風船を取り付けることは無かったのですが、実際に風船を取り付け動かしてみると、なかなか迫力のある画になったと思います。

7:発表を終えて
今回の作品は、風船を用いた表現の一例にすぎません。今回はUIの値を参照して風船を制御しましたが、センサーの情報や天候データなどを活用して動かすのも面白いと思います。
さらに、風船の配置もただ規則的に並べるだけでなく、円形に並べたり、部屋のあちこちに点在させたりなど、多様なレイアウトを想定できます。
また、風船とモーターの組み合わせは低コストで空間を大きく演出できるため、コストパフォーマンスに優れた手法だと感じました。
スケッチ
メインの創作物とは少し逸れますが”スケッチ”にも参加させていただきました。
スケッチとは、毎週異なるテーマとなる作品を決めて社内メンバーが各々の自分なりのやり方で模写をし発表を行うという社内独自の取り組みです。
今回はopenFrameworksを使った作品を制作しました。(webカメラの解像度により、画面が小さくなっています。)
中身は、差分を取って動体検知をし、動いた部分に四角形を描画するといったものになっています。
図形の色は、図形の描画基準点(左上)のピクセルの色を使っています。
図形は生成されると、イージングを伴い一定時間かけて拡大し、その後縮小するというクラスを設計しました。
メイン制作物はハードがメインだったので、良い息抜きになりました。また、同じ課題に取り組んでいたCT部の皆さんは、Unityを使い、オプティカルフローまで制作に取り入れており、スキルの高さに圧倒されました。
私が参加した回以外のIEスケッチもたくさん拝見させていただきましたが、人によってやり方は勿論、使用するソフトまでバラバラでとても興味深い内容でした。同じチームにここまで多様なスキルセットが揃っているのは、1→10さまならではでとても面白かったです。
反省点
今回の制作では、かなり反省点が多かったと思います。最初の制作物を決め、それに従って制作を進めていくという点ではスムーズに行うことができたと思いますが、部材選定や発表するうえでの作品の位置づけといった点に時間を取られ、最終的な成果物のクオリティも下がってしまったなと感じています。実際に成果発表の際、全ての風船を上に上げようとすると、検証では見られなかった意図しない挙動をしてしまい、全体のクオリティの低さが目立ってしまったなと感じています。
また、個人的なスケジュールの管理もうまくできておらず、当初予定していた出勤予定日数より少なくなってしまい、見通しを立てて制作することの難しさを改めて感じました。
インターンを終えて
今回のインターンを通して以下の具体的なスキルが身につきました。
- モーターの複数台制御
- 部材選定、それに必要なデータシートの見方
- TouchDesigner(主にスクリプト)
個人的には今回初めて、大型の制作物を作ったので自分の表現できる幅がかなり広がったことが大きかったです。ただ、単に表現方法を学ぶだけでなく、制作を進めていくうえでのマインドや一連の流れ、何に重きを置いてものを作ればよいかなど、多くの学びがありました。
また、実際に制作している企業に参加させてもらったことでワークフローがどうなっているか、ミーティングはどうやって行われているかなど、リアルな雰囲気を知ることができたのも、非常に良い経験になりました。メインの制作物とは別に、スケッチに参加させてもらうなど、日頃の制作活動では絶対に経験できないこと、得られない知識を学ぶことができたと思います。
最後になりますが、今回インターンを受け入れてくださった1→10さま、メンターの服部さん、岩中さん、稲田さん、CT部に限らずお話してくださった京都オフィスの皆様、本当にありがとうございました!