こんにちは、エンジニアの綿貫(@watakemi725)です。

アーティストインレジデンス(EMAP)滞在記 -出国編-  の続編となる、ヨーロッパでの滞在について今回はまとめていきます。

トルコでのトランジットを含め、17時間のフライトで無事にクロアチアに到着します。

ザグレブ国際空港

現地の受入機関としてKONTEJNERという非営利NGO団体が我々の滞在をサポートしてくださることになっており、まずは宿泊場所へ向かいました。

ザグレブの街並み

ザグレブの街並みは歴史を感じさせる古めの建物が多く、街中をトラム(路面電車)が走り回っていることが印象的でした。

街中を走るトラム(路面電車)

居住場所

KONTEJNERの方たちが用意してくださったアパートはメインストリートに面した4LDKほどの大きな部屋です。

リビングルーム(日本の私の部屋より広い)

寝室が3つにリビングルーム(作業部屋)、キッチンが1つ、風呂トイレが2つ。

3人で2ヶ月過ごすには十分なスペースであり、1つ屋根の下で過ごしたからこそ制作の密度も高まっていたようにも思えます。

制作場所

アパートからトラムを使って30分ほどにあるメーカースペースRADIONAが今回の滞在において制作場所として提供されていました。

3Dプリンター、工具、電子部品まで、制作に必要なものは基本的になんでも揃っていました。

地元ザグレブとのつながりがとにかく強く、毎週のようにワークショップが行われていたり、仕事帰りの人がふらっと寄って何かを作っていたりと、素敵な空間でした。

かぞくっちチームでもドローイングロボットとそれをNFT作品としてmintするまでのワークショップを2日間行いました。

ワークショップの告知記事

1日の流れ

8:00 – 起床

9:00 – 朝飯などを済ませる。菅野さんが健康的なミックスジュースが日課。

10:00 – トラムに乗って移動、道中に昼ごはんのサンドイッチを購入。パンがとにかく美味しい。

11:00 – 制作開始

19:00 – 帰路につく,トラムへ乗って,夕飯の食材を購入するなど

20:00 – 料理、夕食(綿貫は料理が出来ないので見習い、食器洗い)

22:00 – 各々作業、就寝など

滞在最終展示

滞在制作の最後に成果発表として展示を行いました。場所はPOGONというクラブと隣り合わせのギャラリー兼ホールのような施設です。

フライヤーなども制作され、地元の多くの方に足を運んでいただきました。

最終展示では、今回の滞在制作で大きくバージョンアップを行った「かぞくっち」をメインに、ディスプレイ数枚での展示を行いました。

アップデートした項目としてはハードウエア面、かぞくっちの形質遺伝子のビジュアル面、スマートコントラクトの3つです。

元々のかぞくっち(かぞくっち第1期)の以下のビデオと比較しながら説明していきます。

ハードウエア面

第一期では展示期間中、スタッフが充電池を1日1回差し替えを行う必要がありました。人の手助けがどうしても必要だったのですが、人工生命的な系において人の手をなるべく借りずに成立している系が理想的と私たちは考えていました。そのため、家ロボットの足を車輪にアップグレードし、充電ブースを作成して赤外線により、充電ブースへ誘導されるような実装が行われました。分かりやすく言うとルンバが充電ブースへ帰る仕組みと似ています。

ビジュアル面

上のビデオをご覧いただくと分かるのですが、家ロボットのディスプレイに表示されている「かぞくっち」はとてもプリミティブな見た目をしています。交尾して生まれてくる子供たちは両親の色のRGBを足して2で分けるというシンプルな仕組みでした。人工生命を所有する、飼うという点において、見た目の可愛さ、特徴というところは購買意欲にも直結するのではないか、という事で形質のアップデートを行いました。より生命的にするために各かぞくっちの形質を64文字の遺伝子によって構成し、交尾があった際に生まれる子供には両親の形質や色などが継承されるようにしました。

スマートコントラクト

スマートコントラクトとはブロックチェーンシステム上の概念であり、あらかじめ設定されたルールに従って、ブロックチェーン上のトランザクション(取引)、もしくはブロックチェーン外から取り込まれた情報をトリガーにして実行されるプログラムのことです。今回の「かぞくっち」では箱庭内で起こるすべての出来事や彼らの情報をチェーン上に記録するという事にフォーカスし、アップデートが行われました。かぞくっちが受精し孵化するまでもトランザクションをかませるなど。

訪れた方への作品説明は英語ですし、プレゼンテーションも英語でするなど、とてつもない緊張に見舞われましたが、楽しく終わることができました。以下に当日の様子がわかるinstagram投稿があるので良ければご覧ください。

滞在中に訪れた場所

せっかく欧州に来たのにザグレブのみに留まるのは惜しいということで、いくつか滞在制作前後に訪れた場所についてまとめられたらと思います。

アルスエレクトロニカ

オーストリアで行われるメディアアートの世界的な祭典「Ars Electronica」と渡航時期が重なり、なおかつザグレブからも車で4時間の距離だったため、渡航2週目にして訪れました。

Ars Electronica 会場入り口と加藤さん

とんでもない作品数の展示であったため、いくつか気になったものだけをピックアップしていきます。

Ralf Becker “mice”
藤畑正樹 “my first piece” (写真に写っている加藤さんはテクニカル周りで携わっている)
平瀬ミキ “三千年後への投写術”
山内祥太 “舞姫”

リエカ

滞在制作冒頭には、ザグレブからバスで2時間の距離に位置しているリエカというバルカン半島の海側へ一泊二日で訪れました。というのも滞在制作後半になるにつれて制作が忙しくなり、ザグレブ近辺の旅行は不可能と菅野さんのアドバイスがあったからです。

魚雷博物館というニッチな場所もあり、熱い館長のオジさんが我々を日本人と分かるやいなや「太平洋戦争のときに日本軍に魚雷を売ったのはリエカからなんだぜ」「この資料は本当は見せちゃいけないんだが見せてやる当時の設計図だ」など熱い対応をしてくださった。おかげで帰りのバスにギリギリ乗り込んだのは思い出深い。

魚雷博物館にあった当時のジャイロスコープ

滞在制作を終えて

ここまで長らく読んでいただきありがとうございます。

個人的に今回の滞在制作はどうしても1年前に携わったドバイ万博日本館デジタル演出での出張と重ねてしまう瞬間が多かったです。ドバイの際は、ある意味会社に守られて、現地の方とのコミュニケーションも最低限とるだけで問題なく案件が遂行されていくという感覚がありました。今回は自らの英語コミュニケーション能力が全ての結果に直結するヒリヒリ感がありました。話す中で分からないフレーズがあったとしても自信の知識をフル回転でどうにか伝えようと足掻く感じの刺激が毎日続くという感じでした。

NFTに対する印象も日本とはまた違った視点を持つ方々が多く(肯定派も否定派も)、現地の方と話す中で新しい視点に気付かされる瞬間もありました。

世界レベルのメディアアートの祭典アルスエレクトロニカの空気に触れることができたのも素晴らしかったです。世界で勝負している作家の作品に触れて、感激することもあれば疑問に感じる瞬間もありました。

今回の滞在制作プログラムへ参加するために応援してくださった会社には感謝、この上ありません。
とても充実した時間を過ごすことが出来ましたし、20代最後のこのタイミングで足を運ぶことができた事にも強い意義を感じました。



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