Room Ex-Cube

こんにちは!エンジニアの河崎 政宗 (@masamunekwsk)です。

今回は2022年6月10日~12日 渋谷にてワントゥーテン有志メンバーで行われた展示会 「WORRA EXHIBITION Vol.01 “WANNA WORRA?”」で制作した作品についてご紹介します。


1. はじめに

1.1 WORRAとは?

WORRA EXHIBITION Vol.01 “WANNA WORRA?”

WORRAとはワントゥーテン社内の有志で集まったクリエイター集団です。WORRAの由来は、ワントゥーテンのロゴ「1→10」の矢印部分である「→ (Arrow) 」の英字を反転させた、「Worra」がチーム名となっています。

これは実際に作品制作を行った私個人の思いですが、「10(応用)から1(基礎)に立ち返ることにより、新しい発見が出来るのではないか」、そんな思いも込められているような感じがしました。

その他、展示会開催概要など詳細に関してはこちらをご覧ください。


2. 作品について

さて、ここからは実際に本展示会にて私が制作・展示を行った「Room Ex-Cube」という作品について、作品概要や技術的な話をさせていただきます。

2.1 「Room Ex-Cube」とは

読み方は「ルーミックキューブ」で、ルービックキューブと同じ発音です。Room Ex-Cubeは512個のLED と6枚のハーフミラーから構成される小さくも大きな不思議な空間です。ハーフミラーで囲まれた箱の中心に存在するLED Cubeの光は、囲まれているはずの空間内に無限空間を生み出します。

Room Ex-Cube 外観

2.2 Concept

平面的な解像度はテクノロジーの進歩とともに益々鮮明となっていますが、奥行き方向への解像度について考えたときに、そこにはどんな世界が広がっているのでしょうか。この観点は、映像だけにとどまらず、人間のコミュニケーションなど、様々な面で奥行きは無意識的に存在しています。表面的な情報やコミュニケーションの中にある奥行きを意識して感じることで、何か感じることはないでしょうか。そんな思いで作ったりもしています。

Room Ex-Cube アニメーション 一部抜粋

2.3 技術的な話

ここからは技術的要素について簡単に説明します。本作品の制作期間は約2週間ほどです。

2.3 – (1) LED Cube 制作

LED Cube 部分

まずはLED Cube制作です。今回は、8 × 8 × 8 の合計512個のLEDライトを使用しました。LEDには極性(アノードと呼ばれる+極とカソードと呼ばれる − 極) が存在するため、極性を間違えないように1つ1つ丁寧にはんだ付けし、段を作って立体的に組み立てていきます。ここまでで既に1,000ヶ所以上はんだ付けが必要なので、それなりの根気が必要です…!

青色LEDを選択した理由は、展示会場がやや明るかったため、赤や緑だと明るさに負けて映りが悪かったためです。また、市販のLEDライトは自身が光る際に他のLEDにも干渉してしまうため、512個すべてに拡散キャップをつけて光の干渉による影響を抑えています。シールを貼ったり、LEDに直接ヤスリで傷をつけても干渉防止に役立ちます。

光の拡散性について
出典 https://rikeden.net/?p=164

2.3 – (2) 回路基板制作

ユニバーサル基板から制作

次は基板製作です。目標は複数のLEDを1つのマイコンで制御することです。シフトレジスタ(74HC595)を用いることで、1つのArduinoで512個の LED 制御を可能にしました。シフトレジスタ自体の機能詳細はこちらの記事が参考になると思います。

今回の場合、8 × 8 × 8のLEDを制御するために、LEDの各行に対してシフトレジスタ1つずつの計8つと、段に対して1つ、全体としてシフトレジスタは合計9個用意しました。

あとはこの基板とLED Cube本体と繋ぐとCubeのハード部分は完成です。

基板とLED Cube本体をつなげる

2.3 – (3) アニメーション制作

LED パート最後はアニメーション制作です。今回はarduino.ccが提供しているArduino IDEを使用し、プログラムを組んでアニメーションを制作していきます。プログラムの中身としては、SPI 通信を用いたLED 描画制御を行なっています。SPI通信に関しては、こちらの記事が参考になるかと思います。

暗室でのアニメーション確認

今回はアニメーション冒頭に、WORRAの文字を入れたりしました。16bitで各行にデータを流し込むことで文字を作ることが可能です。こちらが参考になります。また、その他アニメーションは時間遷移するようにしました。

制作期間の兼ね合いでインタラクティブな操作を入れることができませんでしたが、例えば感圧センサで息を吹きかけたアクション、超音波センサで手や身体の距離に応じたアクションなど、Arudinoでセンシング可能な部分は組み合わせ自由なため、様々な拡張性・可能性があります。

2.3 – (4) ハーフミラーを用いたドロステ効果

ここまでで、LED Cubeの完成です。ここからはLED Cubeの外壁として、ハーフミラーを取り付けていきます。ハーフミラーとは、条件によって鏡になったりならなかったりと、下記の図のような性質を持っています。

今回は、展示会場全体よりも、LEDの光によって照らされるハーフミラー内の方が明るい状況です。このため人が鑑賞する際に、人から見て手前のハーフミラー面は透過(中身のLED Cubeが見える状態)、逆に奥の面は鏡(ハーフミラー空間から外が見えず反射する状態)となっています。

ハーフミラー仕組み
出典 https://www.e-kagami.com/magic.html

ここにドロステ効果と呼ばれる、ある映像の中に、ある映像が映り、さらにその映像の中に…といったように、”合わせ鏡”的に描かれる効果を与えます。これには、LED Cubeをまるごとハーフミラーで覆ってしまうことで、どの面からみても”合わせ鏡”の効果が得られる構造を創り出しました。

ドロステ効果
出典:https://www.hisour.com/ja/droste-effect-51816/

2.3 – (5) 開発小話

実は、構想当初は下記のような条件で進めていました。(プレスリリース時の写真と、実際に展示した作品は実は異なっています…LED Cubeも作り直しています…。)

(1) LED Cubeは底面に設置

(2) 外壁底面には木版を使用 (ハーフミラーに穴を開けるのが大変….。)

制作途中で作品がキレイに映るように(1) (2)を変更しています。本来のLED のアノードをメッキ線で延長し、底面ではなくハーフミラーキューブの真ん中に配置するようにしました。またハーフミラーにも LEDと配線するために8 × 8 + 8 = 72 個の穴を空け、底面にもミラーを貼り付けることで、箱の中の空間をより広く見せられるようにしました。


3. 展示会を終えて

たくさんの方に来場いただきとても感謝しています!展示会のメリットとして、”鑑賞者の方の直接的な意見や感想を頂ける”点があると思います。直接伝えられる「次回も開催があれば行きたい」は、想像以上に次回の展示会などに向けた制作モチベーションに繋がります。

また、来場いただいた方の興味も多種多様で、技術的な部分に興味がある方もいれば、単純にアート的に綺麗と捉えてくれる方もいて、私自身新しい発見があったりととても刺激的でした。会話をするのが楽しく、気付けば期間全日在廊していました…。

さて、さいごに現地にて直接頂いたいくつかの質問について、私なりの考えを話させていただければと思います。

(1)「普段からこういうもの(今回の私の場合だとArduinoなど)を扱っているのですか?」

最も多く頂いた質問のひとつです。回答として、基本的に私は普段の仕事でこのような技術に深く触れていませんし、大学でも電子工作には触れたことはありません。ただ展示会に出展するときは、物理的な表現や、物質・現象をコンピュータ制御してみたりするようなアウトプットが好きなので、その都度手法を学んでは、表現に落とし込んでいます。

持論ですが、作ろうと思った時点で、全体の制作過程の半分は終わっていると思っています。インターネットで調べればある程度の事が分かってしまう現代では、作品制作において必要なことは「スキル」ではなく、意外と実現するための「気合い」と「モチベーション」なのかもしれません…。

(2)「自社 / 大学でもこのような取り組みをしたいのですが、どうすればよいですか?」

近年、メディアアート的なものが世に浸透して、メディアアート制作や展示会に興味を持たれる方が増えてきたと思います。学生時代にはプロデューサーとして展示会を主催していた側でもあるので、それらの観点も踏まえて話させていただくと、このような展示会を行うのに必要なことは2つだと私は考えます。

(1) モチベーションのある個別作品の作り手

(2) 少々強引にでも引っ張ってくれる展示会全体の作り手

(1)について、先に述べたように、スキルは調べれば出てくることがほとんどなので、それほど問題にならないと思っています。作品制作において大事なものはモチベーションです。

(2)に関して、展示会制作にもクリエイターの方々が作品作りに注力できるよう、会場に関することやスケジュール管理など、全体をコントロールし常に前に進める人が必要です。

本展示会もクリエイターだけではなく、プロデューサーやデザイナーの方々、その他携わっていただいた方々の支援なしでは開催することができなかったと思います。常にそれらをリードしていただいた関係者の方々には改めて感謝しかありません。

展示会搬入終わりのWORRA メンバー

最後に

WORRAによる展示会はVol.2も開催予定です!次回も乞うご期待ください!それではまた次の展示会でお会いしましょう!



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